本著は作家の村上春樹が小澤征爾に6回に亘りインタビューする形で音楽談義をし、これを編集したものだ。インタビューする側は本来、聞き役だろうが春樹の音楽観は尋常ではなく、征爾本人のあとがきでも、「春樹さんの音楽好きは正気の範囲をはるかに超えていて、僕が知らないこともたくさん知っている」とある。聞き役を超えた春樹の音楽知識の豊富さには圧倒され、驚かされる。内容的には小澤征爾が演奏家、指揮者、オーケストラ、作曲家、ホール、オペラ等々について、豊富な経験をふまえながらいろいろなエピソードを交えて語る生き生きとした言葉に惹きつけられた。小澤征爾の意外だった側面を拾うと、
ボストン時代の車で移動中には、森進一の「港町ブルース」や藤圭子の「夢は夜ひらく」などの演歌をよく聞いていた。
クラシック音楽・小澤征爾ファンのみならず、音楽・文学ファンにも必読の一冊だ。