小林公二「アウシュヴィッツを志願した男」を読んで

戦後70年。日本では靖国神社や慰安婦などがいまだ尾をひく問題だが、ナチの残虐無比な史実もこれを暴く新刊本がいまだよく出回る。この本も著者が日本人でこの春に発刊された。ドイツ占領下の悪名高きアウシュヴィッツに潜入し、脱出したポーランド軍人を描いたノンフィクション形式の記録だ。アウシュヴィッツについては、関連図書を読んだこともあっておよそその実態を知っているつもりでいたが、以下のことなどは初めて知った。

  • 収容所内にポーランド軍による地下組織があった
  • 収容所内では家族からの送金や小包も認められていた
  • 所内では売店があり、タバコやサッカリン、ピクルスなどを収容者が購入できた

本の帯には「殺戮の真実」などと書かれていて、収容所での残酷な描写も多い。タイトルからはアウシュヴィッツに終始されがちだが、潜入の記録は本全体の3分の1ほどだ。残りは、その後のワルシャワ蜂起と挫折、スターリンに支配されたポーランド政府内での抵抗と逮捕、みせしめ裁判と続き、不遇の最期で終わっている。本の副題が「ポーランド軍大尉、三度死ぬ」とあり、ナチとスターリンの全体主義と戦い、最期はポーランド傀儡政府との戦いで負けた誇り高きポーランド人の生き方を描いている。まあ日本人がよくここまで書けたものか、と思う労作だ。

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