前回の読書「カノン」に関連して、題記の本を読んだ。1976年、同一作家が大学四年生の時に書したデビュー作で当時、文芸賞を取って話題となった「北帰行」だ。ボリュームはさほどないが、難しい文体と読むのに不慣れな漢字使いに手こずり読了には1週間を要した。北海道から集団就職した青年が挫折し、帰郷途上に心の支えにしてきた歌人「石川啄木」の足跡を旅して過去と現実を交錯させながら苦悩する青春物語。全体を通してもの暗く、荒涼とした雰囲気の中で、啄木の自伝めいた解説が最後まで続く。最終章で友人からの手紙のやり取りが山場で決して後ろ向きではない力強い結末に至るのが救いだ。読破するには大変だが、素晴らしい作品だった。石川啄木は私の好きな歌人で、今迄に本人の作品や後世の人が書した評論を幾多読んだが、この本の醸し出す啄木像には衝撃を覚えた。啄木がよく研究され、きっと真摯に捉えたものなのだろう。物語には無関係だが、作品中にあった啄木の歌の中から..、
「ふるさとの山に向かいて 言うことなし ふるさとの山はありがたきかな」
「ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく」