今般の直木賞候補作の一つである題記の本を読んだ。筆者の小説を読むのは2回目で、前回は2年前の直木賞候補作だった。今回も似たようなジャンルの内容で、サスペンスやミステリーとはちょっと違うハードボイルド的な推理小説だ。本の帯には「圧倒的実力を誇る著者が、ついに書き上げた大河ミステリー」とあり、6章立て約600ページの長編だ。幼馴染み5人組が還暦までに至る昭和、平成、令和の各章で殺人事件に絡み合いながら物語が進む凝った構成だ。主要な舞台は長野県上田市と松本市、ほんの通過点で安曇野市も出てきて、土地勘的には場所ばしょのイメージが湧いて面白かった。ただ、ストーリー展開は緻密ながら、ナルホドよくぞそこまでと驚嘆するようなサプライズはなく、辻つま合わせ的な強引さが目立った。合わせて、永井荷風、太宰治、中原中也などの文豪のフレーズが物語に脚色されていて、こじ付けがましく浮いた感じがした。暴力やイジメのシーンもグロテスクな表現が氾濫し閉口した。文芸的にもエンターテイメントのみに終始した感じで、読後の充実感はなかった。
Monthly photo – 2023.9
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