図書館の新刊コーナーで題記2冊を借りて、読んだ。
「約束の海」は山崎豊子の最期の作品として話題を呼んだ。3部構成の第1部が完成したが、後続の2部、3部はその構想をスタッフが20頁ほどの紹介文に纏めている。同作家で著名な「白い巨搭」では医学を、「華麗なる一族」は金融をテーマにしたが、今回は戦争と平和について作家生活の最後をくくる大作だったようで、期半ばに未完で終わったのが悔やまれる。第1部は序章で、自衛艦と遊漁船との衝突が描かれ、実際にあった横須賀港沖の海難事故を取材し、これをもとにした人間ドラマとなっている。以前に住んでいた市で起った事故でもあり、興味深く読めた。また、事故当日に予定されていた花火大会が中止となり、去りし日の思い出が交錯した。
「ジャーニー・ボーイ」は初めて読む作家の作品で、著者歴からして推理小説の類いかと想像した。題名のイメージとも異なり、内容は明治初頭の北関東/東北を舞台に英国婦人の画する日本紀行の取材を案内人側から描いたもので、「東海道中膝栗毛」が如くのドタバタ劇に推理小説を持ちこんだような構成となっている。チャンバラ活劇が藤沢周平を彷佛させて、楽しく読めた。
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前回の読書「カノン」に関連して、題記の本を読んだ。1976年、同一作家が大学四年生の時に書したデビュー作で当時、文芸賞を取って話題となった「北帰行」だ。ボリュームはさほどないが、難しい文体と読むのに不慣れな漢字使いに手こずり読了には1週間を要した。北海道から集団就職した青年が挫折し、帰郷途上に心の支えにしてきた歌人「石川啄木」の足跡を旅して過去と現実を交錯させながら苦悩する青春物語。全体を通してもの暗く、荒涼とした雰囲気の中で、啄木の自伝めいた解説が最後まで続く。最終章で友人からの手紙のやり取りが山場で決して後ろ向きではない力強い結末に至るのが救いだ。読破するには大変だが、素晴らしい作品だった。石川啄木は私の好きな歌人で、今迄に本人の作品や後世の人が書した評論を幾多読んだが、この本の醸し出す啄木像には衝撃を覚えた。啄木がよく研究され、きっと真摯に捉えたものなのだろう。物語には無関係だが、作品中にあった啄木の歌の中から..、

「カノン」はペンネームを二つ持つジャーナリスト兼作家の作品で、学生時代に別ペンネームで文壇デビューして以来30数年振りに執筆したもののようだ。文芸誌、書評には “身が震えるほど感動的な新生ドラマ”とあり、読みはじめたところスリリングな展開に身の毛がよだち一昼夜にして読み終えた。近未来を想定した生体・脳間(海馬)移植をテーマに家族愛や生命の尊厳を捉えたSF的実験小説の類いだ。設定はあまりに現実離れしたものだが、緻密に組み立てられたストーリが読み手を釘付けにし最終章は目もくらむほどの展開で感動ものだった。




