岡本学「アウア・エイジ(our age)」を読んで

本日、第163回芥川賞・直木賞の受賞発表がありました。コロナ禍の影響からか、通常の時間帯よりも2時間ほど発表が早まり、早速、受賞作を図書館に貸し出し予約しました。受賞作については随時、当ブログで取り上げてみたいと思っています。

今回の芥川賞候補5作の中で、唯一受賞発表前に読んだ1冊だ。前回1月の芥川賞では、発表前に全候補の5作を読んでいずれも面白くなく、それが俗に芥川賞候補の所以なることを痛感した。ところが、今回は1冊のみ読んだだけだが、今までの芥川賞候補の持つイメージとは違って、大いに面食らった。その一番は読んで面白かったことだ。全体を通して退廃を色濃く感じる文体だが、ストーリーに流れがあって読み飽きない。退屈しない、と言うことは芥川賞の受賞を既に逸する感は否めないが、ぜひ受賞してほしいと最後はその思いを強めた。学生時代にバイトで知り合った女性への想いを20年後に綴った回想録で始まり、その時の謎めいた事象を今になって一つづつ解き明かしていく構成で、純文学の中に謎解きのミステリーを持ちこんだ雰囲気を随所に感じた。いつもの芥川賞候補の持つ倦怠で退屈なイメージからは程遠い、メリハリがあって積み上げたストーリーにのめり込んで楽しめる内容だ。その分、ストーリー展開があまりに出来過ぎていて、筆者の作為性を炙り出したように感じたのが心残りだった。

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