伊与原新「八月の銀の雪 」を読んで

先々月に選考のあった直木賞候補、6作品の中で5作品目を読んだ。残りの1作品(オルタネート)は1/4に至る前にどうにも読みあぐね、すでに途中放棄した。これで一通りの候補作に目を通したが、自分が選ぶとすると本作が直木賞に一番ふさわしいと思った。本作品は5つの独立した短編からなるが、どれも今の世相を背景にしたものの中に地球物理というか科学的な面白話が散りばめられていて、しっとりとしたストーリーの中にうまく調和して楽しめた。どの主人公も悩みを抱え、苦しみそしてあがきながらも人との交わりを通して、最後は爽やかな方向に向かってエンディングとなる構成で、何とも心地よい。著者の経歴は物理系の出身で随所にその面影を感じたが、巻末には凄まじい数の文献が参照されていて、伏線となる理系の語りが本物の中にもエキスが凝縮されており、5つのテーマが楽しく学べた。こんな読書の醍醐味が味わえたことに感謝したい。お勧めの1冊だ。

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