くどうれいん「氷柱(つらら)の声」を読んで

第165回(2021年上半期)芥川賞にノミネートされた題記の小説を掲載雑誌「群像4月号」を通じて読んだ。雑誌のページ数にして約50頁、文体も読みやすくあっと言う間に読み終えた。主人公の高校時代から始まり、大学、社会人に至るまで、筆者と取り巻く人の生活模様が断片的に綴られている。その根幹をなすのが東日本大震災で、登場人物の心に深く刻まれた震災の体験が時の経過とともに少しも薄らぐことなくいつまでも深い影を残している様が描かれている。今も震災復興が継続的に行われているが、支援する或いは支援されると言った表面的な出来事ではなく、被災者の内なる心理が脈々と描かれ多くの人のその後の生き様が綴られ、その生々しさを再認識させられた。筆者は20代の若手で、普通だと文体やフィーリングに世代のギャップを感じることが多いのだが、本小説はそのような違和感はなくとても容易に読む側の心を捉えて純文学の香りも感じさせた。ただ、芥川賞を獲得するようなオーラは感じなかった。

安曇野の風 について

安曇野に巣くう極楽トンボ
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