「小川洋子の偏愛短篇箱」を読んで

以前に読んだ「陶酔短篇箱」の前作にあたる題記の短編集を読んだ。前回読んだ作品は「動物」がらみの生き物たちがそこかしこ登場し、撰者の小川洋子がこれぞと陶酔した様を色濃く感じた短編集だった。今回の偏愛編では小川洋子のいかにも偏った思い入れが込められた短編集で本のタイトル名をなるほどと思い知った。選んだ短編は16篇、全体のバランスなど考えない、筆者の男女比率、題材の偏りなどどうでもいい問題で、むしろ偏っていることを追求した結果が1冊になった、とは編集した小川洋子の言葉だ。何の脈略もなく、唐突さも流れに任せて読み進む心地よさを楽しめた。それでも1作品づつがとても深みがあって、最後に小川洋子の作品解説を読み解くもの面白かった。短編作家の簡潔したストーリーの先を見透かしたようなエッセイ、多くは自らの実体験、ほのぼのとした母親目線など、小川洋子ならではの感受性の豊かさを存分に味わえた。世に短編集はあまたあるが、こうした目から鱗の解説付き短編集に巡り合えた喜びはひとしおだった。

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