山下紘加「あくてえ」を読んで

先の第167回芥川賞候補作で題記の小説を収録雑誌の中から読んだ。今回の候補作は5作品とも女流作家によるもので、全作品を読み比べると本作は受賞作と似た感じを持った。日々の生活の中で織りなす人間関係の人物や性格の描写がうまく、いかにも女性的でもある。小説家志望の主人公、母親、「ばばあ」(本の表記)の日常を描いていて、題名の「あくてえ」とは、悪口や悪態といった意味を指す甲州弁のようだ。主人公と祖母がお互いに悪態を付きそれを母が取り持つと言ったストーリー展開で、要オムツにして我儘放題で悪態を付く祖母を気丈に世話する実子ではない母の健気さが目を引く。元凶は不倫して出て行った父親なのに、たまに顔を出して祖母と父親が仲まじく描かれる様は怒りをも買う。介護地獄に献身的にひたすら尽くす母と祖母と孫との壮絶な悪態合戦がエンドレスで続き、その凄まじさに圧倒された。総じて本作が受賞してもよかった感じがした。

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