今年のノーベル文学賞、受賞作家の最新作を読んだ。初めて読む作家で、受賞の報でミーハー的に3冊の本を図書館予約した。掲題の本は実は2冊目で、最初の本は「充たされざる者」を読み出したが途中放棄した。950頁に及ぶ長編は退屈なばかりで、貸出し期限の2週間内で半分ほど読んで断念した。2冊目の本も長編だが、こちらは結構面白く読み終えた。舞台はイギリスの6・7世紀、アーサー王没後の先住民族とアングロサクソンの移民族との抗争時代を描いたものながら、「鬼」や「竜」が登場するファンタジーぽい小説だ。だが、荒唐無稽なファンタジーの世界を描いたおとぎ話ではなく、「過去の記憶と忘却」「侵略と復讐」をテーマにした社会派小説の類だった。非現実的なストーリを作者の世界観で読者をグイグイと引込み、たちまち魅了してしまうのはさすがノーベル賞作家の感がした。文章の魔術師でファンタジーの世界を描いた小説といえば、村上春樹を彷彿させるが、両者はまるで違った雰囲気だ。春樹が天性の魔術師であるならば、イシグロは相当な苦労人のような気がした。この作家がどんなか、もう少し読んでみたいと思っている。
Monthly photo – 2023.9
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